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キュビスム芸術史―20世紀西洋美術と新しい〈現実〉―

08/25/2020 04:07:48, , 松井 裕美

によって 松井 裕美
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内容紹介絵画、彫刻、文学、建築などの作品においても、理論や批評の言説においても、多面的かつ国際的な拡がりをもつキュビスム。「幾何学」的表現の誕生・深化から、二度の世界大戦を経て、歴史的評価の確立へと至る曲折に満ちた展開を、美術と〈現実〉との関係を軸に描ききる。 【受賞】 ・第32回「和辻哲郎文化賞」 “…… 本書においては、まさにキュビスムという多面的に乱反射する芸術運動を通じて、20世紀という戦争と革命と科学技術の時代そのものが浮き彫りにされているのである。著者の博捜と力技に敬服せざるを得ない。……"(野家啓一氏による選評) “…… 本書の独創性は就中、次の点にあるだろう。すなわち、美術解剖学や人体比率の科学的知識がキュビスム誕生の根底にあることを、ピカソらの作品の精緻な分析を通して明らかにした点である。この方向の研究は世界的に、ペペ・カーメルと松井氏をもって嚆矢とするようだが、前者が第一次世界大戦前のピカソしか扱っていないのに対し、後者はよほど広範に、第一次大戦以後第二次大戦前後までをも考察の対象としている。また単に図式的なもの一般を指すとされて来たダイアグラムを、異なる現実の描写方法を並置することで新たな認識を与える装置と捉え直し、その種のダイアグラムとしてキュビスムの意義を洞察する点にも、本書の独自の貢献があるに違いない。……"(関根清三氏による選評) “…… 本書は、感情や直観からの働きとしてのキュビスムの運動を20世紀における具体的な画像のうちにとらえた。この運動は、さらに20世紀末、21世紀には、どのように形を変えて展開するのだろうか。そもそも、どんな基礎がそこにあったのか、あるべきなのか、また美しさとは一体何なのか。松井裕美氏は、こうした問題に向けて哲学や倫理学、さらには文化論へも大事な示唆を与えて下さっている。"(黒住真氏による選評) 【書評】 ・『美学』(第255号、2019年冬、評者:稲賀繁美氏) ・京都新聞ほか(2019年12月29日付、読書欄特集「2019 目利きが選んだ3冊」など、評者:成相肇氏) [岩手日報・下野新聞・静岡新聞: 2019年12月22日付、北日本新聞・沖縄タイムス: 2019年12月28日付、秋田さきがけ・河北新報・新潟日報・京都新聞・山陽新聞・中国新聞・日本海新聞・山陰中央新報・高知新聞・徳島新聞・熊本日日新聞・南日本新聞・琉球新報: 2019年12月29日付] “…… キュビスムは単なる描き方のスタイルではなく、認識を変容させる、一種の装置の発明だった。それはどんな設計で、どんなエンジンが付き、どんな機能があったのか。作品に則した実証的な分析を徹底し、いかつい学術書に見えて記述はきわめて明快。プログラム(仕組み)を解き明かしつつ作品空間を仮想体験するような冒険の書。……"(「京都新聞」2019年12月29日付) ・「建築討論」(ウェブマガジン、2019年9月1日付、評者:長谷川新氏) “本書を貫く、つまりはキュビスムという芸術実践を貫くひとつのイメージは「ダイアグラム」である。…… 本書の卓越は、こうしたキュビスムの実践――「ダイアグラム」が、偶然であるよりもむしろ芸術家たちによって意識的に生産されていったことを示すとともに、それらが社会空間のなかで理論化され、歴史のなかに書き込まれ、様々に影響を与えあっていくさまを描いた点にある。そうすることで、筆者は「キュビスム理論の普遍性を主張するのではなく、うちたてられた規則を絶え間無く問いに付すキュビスムが既成の理論に対して持つ懐疑的な態度こそが、それらの〔=シュルレアリスムなどの〕芸術に影響を与えたことを明らかに」(p.526)していく。……"(「建築討論」2019年9月1日付から) ・『図書新聞』(2019年6月22日号、第3404号、評者:松田健児氏) “…… 本書は …… キュビスムを同時代フランスの政治的・社会的文脈に置いて理解しようとする、至極真っ当な試みである。そこで得られる知見は、想像以上に実り豊かなものだ。キュビスムが「様式のうえでは過去の芸術と明らかな断絶を示すものであったが、他方で、理論のうえでは過去の試みを踏襲するものであった」と明確に述べられているように、キュビスムを単に造形上の「革命」ともちあげるだけの見解に、根底から修正を迫ってくる。…… 本書を読了した後は、たとえば「分析的キュビスムが行った対象の分析を極限まで突き詰めていくと、対象そのものが溶解して把握できなくなってしまうため、壁紙や新聞紙を貼り付けて現実感を導入する総合的キュビスムが始まった」というような、教科書的な物語(ストーリー)さえも採用できなくなってしまうはずだ。しかも、ピカソとブラックを論じるだけで事足れりとするのではなく、このふたりとは別に、キュビスムの展開に寄与したピュトー派(ル・フォーコニエ、ジャック・ヴィヨンやデュシャン兄弟など)、あるいはフェルナン・レジェ、フアン・グリスのキュビスムにも目を配る。このため、キュビスムがもつ多様性を包括的に把握することもできるだろう。……"(『図書新聞』第3404号、第6面) ・『週刊読書人』(2019年5月31日号、第3291号、評者:河本真理氏) “…… 本書の白眉は、松井氏がフランスの博士論文で取り上げたピカソとデュシャン=ヴィヨン(マルセル・デュシャンの兄)の素描の精緻な分析を通して、美術解剖学との密接な関係(第2章)や、機械と有機的身体の融合(第4章)などを説得力をもって明らかにするくだりであろう。本書の特色の一つは、ジョン・ベンダーとマイケル・マリナンの『ダイアグラムの文化』(2010年)に倣って、ダイアグラムを、いわゆる図式的なものとしてだけではなく、「異なる現実の描写方法を並置することで、それを読解しようとする者に新たな認識を与える道具」として幅広く捉え、そこからキュビスム自体を現実認識のダイアグラムと見なす点にある。…… 造形的分析にとどまらず、文学や思想、政治社会など多様な分野とキュビスムとの関わりを検討することで、美術史だけではなく文学・科学・思想など幅広い領域の読者に訴えかけるものである。……"(『週刊読書人』第3291号から)内容(「BOOK」データベースより)絵画、彫刻、文学、建築などの作品においても、理論や批評の言説においても、多面的かつ国際的な拡がりをもつキュビスム。「幾何学」的表現の誕生・深化から、二度の世界大戦を経て、歴史的評価の確立へと至る曲折に満ちた展開を、美術と“現実”との関係を軸に描ききる。著者について松井裕美(まつい ひろみ) 1985年 京都市に生まれる。 2008年 東京大学文学部卒業(美術史学) 2010年 東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了(美術史学) 2010-15年 東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍(比較文学比較文化) 2011年 パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校修士課程(Master2)修了(美術史学) 2015年 パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校博士課程修了(美術史学) 2016年 第5回名古屋大学石田賞受賞 日本学術振興会特別研究員、名古屋大学大学院文学研究科特任講師、名古屋大学高等研究院特任助教などを経て、現在は神戸大学大学院国際文化学研究科専任講師。 著訳書に、Construction et Definition du Corps(共編著、Les Editions de Net、2015年)、Images de guerres au XXe siecle, du cubisme au surrealisme(編著、同上、2017年)、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』(共訳、ありな書房、2017年)ほか。 (所属等は初版第1刷発行時のものです。)著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)松井/裕美 1985年京都市に生まれる。2008年東京大学文学部卒業(美術史学)。2010年東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了(美術史学)。2010‐15年東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍(比較文学比較文化)。2011年パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校修士課程(Master 2)修了(美術史学)。2015年パリ西大学ナンテール・ラ・デファンス校博士課程修了(美術史学)。2016年第5回名古屋大学石田賞受賞。日本学術振興会特別研究員、名古屋大学大学院文学研究科特任講師、名古屋大学高等研究院特任助教などを経て現在、神戸大学大学院国際文化学研究科専任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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ピカソの絵は、分かりたいという欲望を掻き立てる。「ゲルニカ」のようにスペイン内戦の無差別爆撃をテーマとしている絵ならば何とか阿鼻叫喚の地獄だろうと感じることはできる。1910年前後のキュビスムの人物画、静物画は描かれている対象が何かさえも判読しがたい。色と線の秩序はあるようだが、どう見ればよいのか?お手上げというところだが、この大部な著作から方法を得られるのだろうか。著者の松井氏の研究は博捜を極め、キュビスムに関してならどんな資料でも―未刊の文献や素描など―求めて、欧米の諸都市の美術館や芸術センターなどを訪ねたようだ。ピカソやブラックに影響された同時代の作家の作品と理論的著作-彼らは追随者であるだけひどく雄弁なのだ-を掘り起こし、ダダイスム、ピュリスム、シュールレアリスムといった20世紀の芸術運動におけるキュビスムのインパクトを辿る。もちろん第2次大戦終了時期までのピカソの動向は外せないし、キュビスムの評価史、展覧会、研究史の押さえも手堅い。こうした周辺のことからもキュビスムに親しんでいける。さて、私たちは解読の鍵を手にすることができるのか。松井氏がまさにピカソの素描と作品を照合させて探り当てたのは、「ダイアグラムとしての作品」という考え方であった。ダイアグラムとは例えば鉄道のダイヤ(運行図)などでいう図式のことである。ピカソもこの時代の美術教育で教えられていた人体比率の幾何学をマスターしていたが、それを着想のもとにして水平線、垂直線、斜線と平面で身体を表現するダイアグラムを誕生させたという。その前の時期には、美術解剖学の筋肉構造に由来する組紐構造などが身体表現に使われていたことも緻密に論証される(ピカソの変貌は忙しいので、それを追うのも大変である)このダイアグラムという説明を手にしても、やはり足踏み状態は続くようだ。松井氏も「キュビスム作品の仕掛けたゲームにおいて、あらかじめさだめられたルールを見てとるのは至難の業である。それはキュビスム特有の難解さの裏に、巧妙に隠されてさえいる。」と書いている。そして、松井氏の引用するルービンという学者の次のような意味の言葉が印象に残った。ピカソの発想源よりも彼がその発想源を変形させる方法のほうがはるかに関心を引くというのである。ところが、その変形させる方法が分かるという保証はない。やはりピカソは天才なのだろう。

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